風呂好きな偉人たち~世界史の著名人が残した入浴エピソード
2026.07.15

これまで風呂好きな戦国武将文豪たちについてご紹介しましたが、今回ご紹介するのは世界史編。水資源が日本ほど豊富ではない上、迷信によって入浴自体が敬遠されていた歴史があるなど、すんなりと入浴文化が根づかなかった国も多いのですが、それでも風呂好きで知られる著名人は存在します。彼らの入浴エピソードを時代を追ってご披露しましょう。

紀元前3世紀を生きた古代ギリシャのアルキメデスといえば、世界史にその名を刻んだ偉大な学者。今も多く残る彼の業績のうち、特によく知られているのが「アルキメデスの原理」の発見です。
彼の故郷であり、生涯を終えた地シラクサ(イタリア・シチリア島の都市)の王から、壊すことなく王冠の体積を計る方法について相談された彼は、考え込んだ末に、浴場で入浴していた際に、浴槽からあふれたお湯の量で浴槽に沈めた物体の体積が計れることに気づいたと言われています。
この逸話は彼の著書にはなく後年の言い伝えなので、実話かどうか定かでありませんが、それなりに名を知られていたとはいえ、当時のアルキメデスは王侯貴族でもない田舎暮らしの一介の学者でした。そんな彼ですら古代ギリシャでは気軽に浴場に出かけられるほど入浴文化が根づいていたことがわかります。

古代ギリシアの数学者にして物理学者、技術者、発明家、天文学者でもあったアルキメデス
アルキメデスの故郷であり、生涯を終えたシチリア島シラクサ県の海辺

クレオパトラの名を持つ古代エジプトの王族は複数いましたが、一般に知られているのは紀元前50年頃のプトレマイオス朝最後の女王だったクレオパトラ7世。古代ローマの将軍シーザー(カエサル)とのロマンスが有名な彼女は絶世の美女であり、大の風呂好きだったと言われています。
お風呂は彼女にとって欠かせないものだったとか。バラの花を浮かべたり、ヤギのミルクを入れたり、高価なワインや果実も入浴剤として大いに使用したと伝わっています。肌の角層に水分を取り込み、油分などで蒸発を防いでうるおいとバリア機能を高める保湿作用、すなわち今日で言うところの「モイスチャー効果」にすでに気づいていたのかもしれません。

18歳で弟とともにプトレマイオス朝の共同王位についたクレオパトラ7世
クレオパトラが好んだバラ風呂。一説によると、いつでも彼女の要望に応えられるよう、風呂沸かし部隊が24時間待機していたとか

古代ローマの五賢帝の一人で、2世紀前半のローマ帝国全盛期に君臨した第14代皇帝がハドリアヌス帝です。彼は大変な風呂好きだったと伝えられており、自宅はもちろん別荘にも複数の浴場を設置。さらには公衆浴場にも足を運び、民衆とのふれあいも楽しんでいたといいます。
彼の治世は防衛に力を入れることで無駄な戦乱を避け、古代ローマ帝国がもっとも安定していた時期であり、絢爛たる入浴文化が花開いたとか。
ちなみに大ヒットマンガ『テルマエ・ロマエ』にもハドリアヌス帝が登場。主人公の浴場建設技師の上司であり、文化と芸術を愛する皇帝として描かれています。

トルコ共和国南西部のアンタルヤ旧市街に残る「ハドリアヌスの門」。紀元130年にハドリアヌス帝が訪問した際、記念に造らせたとのこと
イタリアのティヴォリにある世界遺産「ヴィッラ・アドリアーナ」。ハドリアヌス帝の別邸として紀元133年に建造された

8世紀の中国・唐代中期の玄宗皇帝の皇妃であり、世界三大美女にも数えられているのが楊貴妃。彼女への皇帝からの寵愛をいいことに、楊一族が専横に走り、唐王朝の衰退につながる安禄山の大乱を招いたことから、傾国の美女と呼ばれています。
風呂好きという点では彼女自身というよりも夫の玄宗皇帝であり、古来からの温泉地である中国・西安市の華清池に離宮「華清宮」を建設し、楊貴妃を連れて毎年逗留していたとのこと。漢詩人・白居易の『長恨歌』にも詠まれた二人のロマンスの地として、華清池は現在でも人気の観光スポットであり、皇帝の専用風呂「蓮華湯」と楊貴妃の専用風呂「海棠湯」も注目の的。少し離れた源泉からは今も天然のお湯が湧き出ているそうです。

楊貴妃を愛して止まない玄宗皇帝は彼女の好きな果実「茘枝(ライチ)」を約1,600km離れた広州から長安の都まで早馬で運ばせたとか
華清池に建立された楊貴妃像『貴妃出湯』。中国を代表する彫刻家だった故・潘鶴氏が1991年に制作した

18世紀のフランス王妃で、フランス革命によって刑死した王妃マリー・アントワネット。彼女は悪政のもとで飢えに苦しむ民衆を前に「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と言い放ったとの高慢な逸話が知られていますが、これは近年の研究で彼女の発言ではないことが判明。オーストリア出身の彼女は華美で儀礼に満ちたフランス王朝文化に馴染めず、むしろ実家で親しんでいた豊かでありつつも合理的で質朴な暮らしを好んだ女性だったようです。
実は彼女の風呂好きもその一環だとか。当時、感染症をもたらすとの迷信から入浴が敬遠され、強烈な香水で体臭を消すのがフランス王朝でのたしなみでしたが、彼女はその慣行に従わず、嫁ぐ前からの入浴習慣を続けていたといいます。日々入浴しているマリー・アントワネットに強い香水は必要なく、植物系香料から作られる軽やかな香りの物を愛用。やがて軽めの香水が貴族の間でも流行するようになったそうです。

そもそもフランス宮廷には反オーストリアの感情があり、当初から反感を持つ貴族たちからの中傷が多かったと言われるマリー・アントワネット
彼女の意志で離宮・トリアノン小宮殿の庭園に築かれた小集落「王妃の村里」。彼女はここで子どもたちとともに自然や農業に接し、田舎暮らしの楽しさを味わった

フランス革命後の混乱を収拾し、第一帝政の皇帝に就任。さらにはフランスへの干渉を図る欧州諸国と戦い、一時は欧州の大半を勢力下に置いたのがナポレオン・ボナパルト。彼は入浴を忌避する当時の風潮をものともせず、日々オーデコロンを振りかけた熱い風呂につかるのが習慣でした。
彼はフランス領内でありながらも本国から遠く離れたコルシカ島の出身であり、マリー・アントワネット同様に従来のフランス文化に染まっておらず、入浴への抵抗感はまったくなかった様子。むしろ、生粋の軍人として長年軍務に従事した上、睡眠障害や持病の胃病に苦しめられて傷ついた肉体を癒すかけがえのないひと時だったのかもしれません。

一代の英雄としてヨーロッパ全土を震撼させた風雲児ナポレオン・ボナパルト
パリの象徴でもあるエトワール凱旋門。アウステルリッツの戦いでロシア・オーストリア連合軍を破ったナポレオンの命で築かれたが、建設に約30年かかり、完成前に彼は死去した

世界の偉人の入浴エピソードの数々、いかがでしたでしょうか。
いずれも入浴を単なる体の洗浄機会としてだけでなく、バスタイムをアイデアの出やすいリラックスの場としたり、美容や癒し、憩いのひとときとして楽しんでいるのが見て取れます。
お風呂の持つ可能性は人類の歴史が続く限り、さらに拡がっていきそうです。

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